ポートレート用のレンズを調べると「85mmが定番」「50mmは万能」といった言葉が並びます。ただ、なぜそうなのかまで説明されていることは多くありません。
結論から言えば、焦点距離によって顔の写り方が変わるのは、好みの問題ではなく幾何学の問題です。理屈が分かると、自分の撮りたい写真からレンズを逆算できるようになります。
なぜ焦点距離で顔が変わるのか
先に、よくある誤解を解いておきます。
「広角レンズは顔が歪む」というのは、正確ではありません。 歪ませているのはレンズではなく、被写体との距離です。
同じ大きさに人物を写そうとすると、広角レンズでは近づく必要があり、望遠レンズでは離れる必要があります。近づけば、カメラに近い鼻とカメラから遠い耳の距離の比が大きくなり、鼻が大きく写る。離れれば比が小さくなり、顔は平坦に整う。
つまり顔の印象を決めているのは撮影距離であって、レンズそのものではありません。焦点距離は「その距離に立つことを強制する道具」だと考えると腑に落ちます。
35mm——空間ごと写す
被写体だけでなく、その人がいる場所を一緒に写したいときの焦点距離です。
- 背景が広く入るため、状況や空気感が伝わる
- 寄れば大胆にデフォルメでき、動きのある画になる
- 室内など、下がれない場所でも全身が入る
一方で、顔だけを大きく撮ろうと近づくと、鼻が大きく顎が細く写ります。顔のアップには向きません。 環境ポートレートやスナップ寄りのポートレートで本領を発揮します。
背景をぼかす力は控えめなので、背景の整理は自分でする必要があります。
50mm——最初の一本にちょうどいい
人間の視野に近い自然な写り方をする焦点距離です。
- 上半身から全身まで、一本で幅広くこなせる
- 広角ほど誇張せず、望遠ほど窮屈にならない中間
- 明るい単焦点が各社で安価に手に入る
最初の一本として最も潰しが効きます。 特に室内では、85mmだと下がりきれず使えない場面が多いため、50mmの汎用性が生きます。
弱点は、良くも悪くも「普通」なこと。狙って作らないと平凡な画になりがちです。
85mm——ポートレートの王道
顔をきれいに写すことに関しては、これが定番とされる理由がはっきりあります。
- 適度に離れて撮るため、顔の各部の比率が自然に整う
- 背景が大きくぼけ、人物が浮き立つ
- 背景の写る範囲が狭く、余計なものを排除しやすい
背景処理が楽になる点は見逃せません。望遠になるほど画角が狭くなり、写り込む背景の量が減るため、街中でも背景を選びやすくなります。
弱点は距離です。上半身を撮るのに3m前後、全身なら5m以上必要になることも。日本の一般的な室内では、下がりきれずに使えないことがあります。
室内で使うときの落とし穴
ここが最も実務的な注意点です。
焦点距離が長くなるほど、同じ構図を得るために必要な撮影距離は伸びます。目安として、上半身のカットを撮る場合の距離感はこうなります。
- 35mm — 1m前後。狭い部屋でも問題ない
- 50mm — 1.5〜2m。一般的な部屋なら足りる
- 85mm — 2.5〜3m。部屋によっては壁に背中がつく
- 135mm — 4m以上。スタジオでないと厳しい
「85mmを買ったのに家で使えない」という失敗は本当に多いです。撮影場所の広さを先に測っておくことをおすすめします。
奥行きのあるスタジオであれば、この制約から解放されます。85mmや135mmの真価は、下がれる場所でこそ出ます。
単焦点かズームか
ズームレンズ(24-70mmや70-200mmなど)は、焦点距離を変えられるぶん現場での自由度が高く、仕事では主力になります。
それでもポートレートで単焦点が勧められるのは、次の理由からです。
- 明るい(F1.4〜F1.8)ため、背景を大きくぼかせる
- 同価格帯ならズームより描写が良い傾向がある
- 焦点距離が固定されるため、自分が動いて構図を作る癖がつく
三つ目が地味に大きい。ズームだと立ち位置を変えずに画角だけ変えてしまい、距離による表現の違いを体で覚えにくくなります。
結局、何から買うべきか
用途から逆算すると、迷いが減ります。
- 室内や自宅で撮ることが多い → 50mm、または35mm
- 屋外で人物を大きく撮りたい → 85mm
- その人のいる場所ごと写したい → 35mm
- スタジオを借りて撮る → 85mm(下がれる環境が前提)
- 一本しか買わない → 50mm
50mmと85mmで具体的に迷っている方は、最初の単焦点、50mmか85mmかで二択に絞って掘り下げています。
まとめ
- 顔の写り方を決めるのはレンズではなく撮影距離
- 35mmは空間ごと、50mmは万能、85mmは顔をきれいに
- 焦点距離が長いほど必要な距離が伸びる。室内では85mmが使えないことも
- 単焦点は「自分が動く」癖がつく点でも初心者向き
- 一本目に迷ったら50mm
レンズの性格は、同じ被写体を同じ大きさで撮り比べると一発で理解できます。奥行きのある場所で35mm・50mm・85mmを続けて試せば、数字の意味が体に入ります。白ホリスタジオでのポートレート撮影術もあわせてどうぞ。
